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第十五分室へようこそ!早速続きを始めたいと思います。

火遠理命=ほおりのみこと
海幸彦と山幸彦
さて、火照命=ほでりのみこと は海幸彦として、大小の魚を捕り、
火遠理命は山幸彦として、色々な獣を捕って暮らしていた。
ある日火遠理命はその兄、火照命に
「兄さん、一度でいいから、お互いの道具を取り替えて見ないか?」
と、頼んでみた。初めは兄神も全く相手にしていなかったが、余りのしつこさに四度目には とうとう1日だけという条件でしぶしぶ承知した。

火遠理命は勇んで、海に出かけていったが、全く魚を捕れないばかりか、兄神に借りた 大切な道具である釣り針を無くしてしまった。
兄神である火照命は大変怒り、どんなに弟神が謝っても許してはくれなかった。

火遠理命が自分の剣を溶かし、五百もの釣り針を作って献上しても、1千作って献上しても 火照命は「元の釣り針をかえせ!」といって、 受け取ってはくれなかった。

海神の宮訪問
途方にくれた火遠理命が海岸で泣いていると、
鹽椎神=しおつちのかみ*1 という老人がやってきて、聞いた。
「虚空津日高=そらつひこ*2 よ。何故ないておるのだ。」
火遠理命は突然現れた老人を怪しみながら、これまでの事を説明した。
「なるほど、それでは私が良い事をお教えしましょう。」
鹽椎神は无間勝間の小船=まなしかつまのこぶね を造るとその船に火遠理命をのせ言った。
「この船で潮の流れに乗って、どこまでもゆけば魚の鱗で屋根をふいた宮殿に到着します。
そこは綿津見神の宮殿です。その宮殿にある井戸の側の木に登りなさい。きっと良い事が起きるでしょう。」

火遠理命が老人の言うままに船に乗ると、確かに素晴らしい宮殿に到着した。
そこで、彼は言われたとおりに井戸の側の木に登って、待っていると綿津見神の娘、 豊玉比売=とよたまひめ の侍女が井戸に水を汲みにやってきた。
侍女は水を汲もうと井戸を覗いた時、そこに麗しい男性が映っているのに気がついた。
火遠理命は木の上から彼女に水を一杯欲しいと言い、侍女の持っている比売専用の玉器を受け取った。そして彼は首飾りの珠をはずし、口に含むと侍女の差し出した玉器に吐き入れた。
その珠は器の底に貼りついてどんなに取ろうとしても取れなかったので、侍女は仕方なく珠をそのままに 豊玉比売のところへもどった。
器の底に不思議な珠をみつけた豊玉比売は不信に思い、侍女に問いただした。
「井戸の側の木の上に我が君の綿津見神さまよりも、なお尊く見える男性がおります。これはその方の所業でございます。」
早速、出かけていった豊玉比売は一目で火遠理命と恋に落ちてしまった。
急いで宮殿に戻り、父神をつれてくると綿津見神は大変驚いて、
「この方は、天津日高=あまつひこ*3 の御子、虚空津日高=そらつひこ さまであるぞ。」
と、言うと盛大なもてなしをし、豊玉比売と婚姻をさせた。
火遠理命はこの国で3年を過ごした。

*1、イザナギの子、潮路を司る神
*2、皇太子に相当する尊称
*3、天皇に相当する尊称

火照命の服従
ある日、火遠理命は自分がここに来たのは釣り針の件だった事を思い出し大きな溜息をついた。
綿津見神と豊玉比売がその溜息を聞きとがめ理由を聞いた。
火遠理命がそのわけを説明すると、
「なるほど・・では少し御待ちを・・」
そういって、綿津見神は海の大小の魚をすべて呼び集めて、魚達に釣り針のことをたずねた。
すると一匹の魚が
「そう言えば、赤鯛がのどに何かが詰まって物が食えぬと嘆いておりましたが・・・?」
と言うので、その赤鯛を呼び、喉を見てみるとはたしてそこには御子の探す釣り針がかかっていた。
綿津見神はその釣り針を綺麗に洗い、御子に献上すると、ある呪の言葉をを授けた。
「この釣り針を兄神に御渡しする時には【この針はおぼち*1 すすぢ*2 まぢち*3 うるぢ*4】とおっしゃってから、後ろ手に渡してください。」
さらに二つの珠を渡すと
「もし兄神が高台に田を作れば、御子は低地に。兄神が低地に作れば、御子は高台に田を作ってください。 私は水を司る物ですから、必ず兄神を苦しめる事でしょう。その事で兄神が怒り戦をしかけてきたなら、この鹽盈珠=しおみつたま を使い溺れさせ、謝ってきたなら、この鹽乾珠=しおふるたま を使い、助けておあげなさい。」
と言って、鮫の背に乗せて地上に送り届けてくれた。
その時の鮫は御子より褒美として、その身につけていた小刀を賜ったので、名を
佐比持神=さいもちのかみ*5 という。

さて地上にもどった火遠理神は綿津見神に教えられた通りに行動し兄神を苦しめたので、火照命はとうとう弟神に忠誠を誓う事となった。
その子孫はこの時の溺れる様を舞にして、毎年奉納する事となっている。*6

*1、この針を持つものは溺れる。
*2、この針を持つものは不安になる。
*3、この針を持つものは貧しくなる。
*4、この針を持つものは愚か者になる。
*5、サイモチのサイとは刃物のこと。転じて鰐などの鋭い牙の事を指すともいう。
*6、隼人舞の起源説話。隼人舞とは薩摩地方に古代から伝わる舞踏の一つ。

はい☆一気にいってしまいましたが・・・
ここは有名な話しなので、御存知の皆様も多いのではないでしょうか^^?
でも、この話しの元が古事記だったとは知らなかったでしょう〜〜( ̄ー ̄)v

この話しを読んでいつも思う事・・こりゃぁ絶対山幸彦のほうが悪い!!
思いませんか!?だって最初に我侭言い出したのは山ちゃんのほうじゃないですか。ねぇ。
海兄ちゃんの言い分は間違ってないデスよね。まあ・・いつまでもしつこく怒ってるのは
チョット大人げなかったとは思いますが、それで滅ぼされた日にゃぁ・・もう・・(泣)
可愛そうな海兄ちゃん・・・(T_T)

と・・まあ・・ここまでにしておいて、
この話しを戦いにたとえると少々認識が変って来ます。
これを海の民との婚姻により、援護をうけて九州南部にいた隼人族を平定した事実の比喩だとしたら どうでしょう?
しかももともと「海」だったのはホデリノミコトだったのに、「山」である ホオリノミコトに何か策を用いられて破れてしまったのではないでしょうか??
後にヤマトタケルの章で出てきますが、九州南部はこの時もまつろわぬものとして、征伐の対象と なっています(クマソ)
九州は常に戦いの歴史だったようです。

余談ですが、シオミツタマとシオフルタマで水を操作したくだりで、私は「十戒」を思いだして しまいました^^;;。
あの海がどどどっーーー!!とわかれるやつ・・・♪
モーゼも杖の先に玉付けてませんでしたっけ・・(曖昧)・・??

他にも日本海側の地方に伝わる昔話にこの玉はよく出てきます。
大体欲張りな長者どんがよくを出してエライ目にあってますが。
水の変りに塩が出てくる玉もよく見受けられます。


鵜葺草葺不合命=うがやふきあえずのみこと
ある日、突然、豊玉比売が地上にやってきた。
お腹の子が生まれそうなのだが天子の子は地上で生むべきだという。
そこで火遠理命は彼女の為に海岸に鵜の羽を葺いた産殿を建てた。
しかしまだ完成しないうちに豊玉比売は産気づき、
「決して中を覗かないで下さい。」
というと、産殿に入ってしまった。
しかし気になってしかたがない火遠理命は禁じていられるにもかかわらず
そっと覗いてしまった。
すると其処には八尋ほどもある鮫(わに)がのたうち回っていた。余りの事に火遠理命は驚き恐れ 逃げ出してしまった。
姿を見られたことに気付いた、豊玉比売はそのことを大変恥じて産み落とした子を残して、海へ帰ってしまった。この時誕生した御子の名を
天津日高日子波限鵜葺草葺不合命=あまつひこひこなぎさたけうがやふきあえずのみこと*1
という。

後に豊玉比売は覗き見た火遠理命を恨みはしたが、恋しい気持ちが忘れられず、妹である、 玉依比売=たまよりひめ に歌をたくして、地上に遣わした。

その時の歌は
赤玉は 緒さへ光れど 白玉の 君が装いし 貴くありけり
【どんなに美しい赤い玉をみても白玉のような尊いあなたのお姿が思い出されてなりません。】

火遠理命の返歌
沖つ鳥 鴨薯く島に 我率寝し 妹は忘れじ 世のことごとに
【鴨が飛んでいく遠い島で私が添い寝をした大切な人よ。一生忘れはしないよ】

この日子穂穂手見命(火遠理命)は高千穂の宮で五百八十歳まで世を治めた。
御陵はその高千穂の山の西にある。

御子、天津日高日子波限鵜葺草葺不合命は伯母である玉依比売を娶った。
この二人の間に誕生した御子は
五瀬命=いつせのみこと
次に
稲氷命=いなひのみこと
次に
御毛沼命=みけぬのみこと
次に
若御毛沼命=わかみけぬのみこと(またの名を豊御毛沼命=とよみけぬまのみこと。またの名を神倭伊波禮毘古命=かむやまといわれひこのみこと)

後に、御毛沼命は常世国に渡り、
稲氷命は母の国である海原に入ってしまった。

*1、産殿の屋根を葺き終える前に誕生した御子という意味。

また!もうぅぅ〜・・
大体「みないでね♪」といって、守られた事はないんじゃないでしょうか・・・(^^ゞ
子を産むときは本来の姿に戻る・・というのは、よく昔話で出てきます。

しかし、自分で覗いといて恐ろしがって逃げるなんて・・・しっかりしろよ!ホオリ!!
本当の姿を見られたからには帰ります!って言うのもお決まりですが、
その後も歌をよこしたりして可哀相なトヨタマヒメ・・・。

そして、彼女の代わりに地上には妹であるタマヨリがやって来ます。
さらに地上の高天原の血と海原の血は交じり合っていきます。
海原は完全にスサノオの手を離れてしまったといっていいのではないでしょうか?
ここで有名なイワレヒコが誕生する事となりますが、
四人兄弟のうち一人は「常世の国」へ・・・(空??)
もう一人は「海原」へ・・(海底??)
それぞれ去っていき、兄(イツセ)とイワレヒコだけになって しまいます。
2人の兄達は何故去らなければならなかったのでしょうか。

さて・・神様のお話もここで終わります。
母と祖母に海原のものを持つ、イワレヒコは現人神となり、初代の天皇として即位する事となります。


上つ巻・・・完

中つ巻に続く


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