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第九分室へようこそ!早速続きを始めたいと思います。

沼河比売求婚
さて、八千矛神(大国主神)は高志国=こしのくに の沼河比売=ぬなかわひめ を 妻に迎えようと思い、比売の家へ向かった。
そこで歌った歌は、

八千矛の 神の命は 八島国 妻枕きかねて 遠遠し 高志国に 賢し女を ありと聞かして 麗し女を ありと聞こして さ婚ひにありたたし 婚ひに あり通わせ 太刀が緒も いまだ解かずて 襲をも いまだ解かねば 乙女の 寝すや板戸を 押そぶらひ 我たたせれば 引こずらひ 我たたせれば 青山に 鵺はなきぬ さ野つ鳥 雉はとよむ 庭つ鳥 鶏はなく 心痛くも 鳴くなる鳥か この鳥も 打ち止めこせね いしたふや 天馳使 ことの 語りごとも 是をば

(ヤチホコの神である私が妻を娶ろうと国中をさがしたら、遠い高志国に賢く、美しい乙女がいると聞いたよ。だからこうしてやってきたのに、あなたは会ってもくれない。上着も着たまま、太刀もつるしたまま、旅装束のままで、待っているのにあなたは戸を締めきったままだ。あなたが寝ている間に戸を押したり引いたりしていたら、山では鵺が、野では雉が、庭では鶏が、私を哀れんで鳴いていた。ああ鳥たちよ。鳴くのはもうやめておくれ。それよりも空を飛んで、この哀しい出来事を伝える語り部となっておくれ。)

そこで沼河比売は戸を隔てた家の中から歌を返した。

八千矛の 神の命 ぬえくさの 女にしあれば 我が心 浦渚の鳥ぞ 今こそは 我鳥にあらめ 後は 汝鳥にあらむを 命は な殺せたまひそ いしたふや 天馳使 ことの 語りごとも 是をば 青山に 日が隠らば ぬばたまの 夜はいでなむ 朝日の 笑み栄えきて たくづのの 白き腕 沫雪の 若やる胸を そだたき まながり 真玉出 玉出さし枕き 百長に 寝は寝さむを あやに な恋い聞こし 八千矛の 神の命 ことの 語りごとも 是をば

(ヤチホコの神さまったら、風になよなよとなびく女でもあるまいし、情けない事を言うのはおよしなさいませ。私の心は浜の鳥ですよ。今鳴いている憎らしい鳥達は私の心ではありません。 殺しておしまいなさい。そして、青山に日が隠れて夜がやってきたら、朝日のような笑顔でおいでなさい。その白い腕も白い胸も優しくたたいて、いついつまでも一緒に添い寝いたしましょう。愛しいヤチホコの神様。)

八千矛神(大国主神)はその日は会わずに帰り、次の日の晩に婚礼をあげた。

須勢理比売の嫉妬(うわなりねたみ)
彼の正妻である須勢理比売は非常に嫉妬ぶかい人であった。
ある日、大国主神が倭国へ向うと知った時も、彼女は非常に心乱れていた。
そこで大国主は出掛けに歌をおくった。

ぬばたまの 黒き御衣を まつぶさに とり装い 沖つ鳥 胸見るとき はたたぎも これは 適はず 邊つ波 そに脱きうて そに鳥の 蒼き御衣を まつぶさに とり装い 沖つ鳥 胸見るとき はたたぎも これは 適はず 邊つ波 そに脱きうて 山縣に あたね舂き 染木が汁に しめ衣を まつぶさに とり装い 沖つ鳥 胸見るとき はたたぎも 比し宣し いとこやの 妹の命 群鳥の 我が群れ往なば 引け鳥の 我が引け往なば 泣かじとは 汝は言うとも 山處の 一本薄 項傾し 汝が泣かさまく 朝雨の 霧に立たむぞ 若草の 妻の命の ことの 語りごとも 是をば

(夜の闇のような黒い素晴らしい衣(誰??)を完璧に装っても私には似合わない、波に流してしまおう。 翡翠のような蒼い素晴らしい衣(これは多分沼河比売)を完璧に装っても私には似合わない、波に流してしまおう。山の畑の茜草で染めた赤い素晴らしい衣(須勢力比売のこと)が私には一番似合うようだ。 渡り鳥のように私が旅立ってしまったら君は泣かないといっていても、きっと泣くのだろうな。 それを思うと哀しくて霧のように溜息が出てしまうよ。)

これを聞いた須勢理比売は杯になみなみと酒を満たして大国主にかけより、歌を捧げた。

八千矛の 神の命や 吾が大国主 汝こそは 男に坐せば 打ち廻る 島の崎崎 かき廻る 磯の崎落ちず 若草の 妻持たせらめ 吾はもよ 女にしあれば 汝を除きて 男は無し 汝を除きて 夫は無し 綾垣の ふはやが下に 苧衾 柔やが下に たく衾 さやぐが下に 沫雪の 若やる胸を たくづのの 白き腕 そだたき たたきまながり 真玉出 玉出さし枕き 百長に 寝をし寝せ 豊御酒 奉らせ

(あなたは男だから行く先々に若い可愛い妻達が待っているのでしょうけれど、私は女だから あなたの他には誰も居ないのです。どうぞあなたは旅先で彼女達と柔らかい暖かい布団でお休みになられませ。でも、何時までも心は私のところにあるとこの御酒を召して誓ってくださいませ。)

そして、二人は酒盃を交わして心が変わらぬ様に誓い固めた。

これを神語り*1という。

*1、歌曲上の名称

私の苦手な恋の歌です^^;;;
しかしヌナカワヒメとの婚姻は政略結婚がプンプン臭ってきます。
この沼河は今の糸魚川のことで、日本で唯一翡翠の取れる川です。
八千の「矛」の神が「翡翠」の比売を求めてやってきた、と言う所でしょうか。
歌を見る限りではこの婚姻はスムーズには行かなかったようですね^^。
じらしてみたり、持ち上げてみたり、強気に出たり、
ヌナカワヒメ・・・なかなかのやり手です^^;

スセリヒメの嫉妬はしばしばオオクニヌシを悩ませたのでしょう。
出かける時に彼は歯の浮くような言葉でスセリヒメを説得します。
いわゆる堅めの杯を交わすわけですが、これは現在も結婚式などで見られますね^^。
余談ですが、ちょっと色のオハナシ☆オオクニヌシの歌にもでてきますが、
古事記には赤・青・白・黒の四色が出てきます。
(黄泉の黄は色ではありませんから・・・^^)
この四色は四神の色です。順に朱雀・青龍・白虎・玄武です。
そして大体その所属(?)によって色が決まっているような感じです。
赤は出雲系(スサノオ系)青は地上の神 白は高天原系(アマテラス系)黒は黄泉。
翡翠色(青)のヌナカワヒメは地上の国つ神だし、スセリヒメは黄泉から出雲につれてきたので赤。
これで行くと黒の黄泉のひめが居るはずなのですが、残念ながらここではわかりません。

大国主の神裔
さて、大国主が
胸形の奥津宮に坐す神、多紀理比売神=たきりひめ*1を娶って誕生した神は
阿遲すき*2高日子根神=あじすきたかひこねのかみ
この神は今は
迦毛大御神=かものおおみかみ*3という。
次に
妹高比売命=たかひめのみこと(またの名を下光比売命=したてるひめのみこと)

神屋楯比売命=かむやたてひめのみこと を娶って誕生した神は
事代主神=ことしろぬしのかみ

八島牟遲能神の娘、鳥耳神=とりみみのかみ を娶って誕生した神は
鳥鳴海神=とりなるみのかみ
ここから二代目
鳥鳴海神と
日名照額田毘道男伊許知邇神=ひなてりぬかたびちをいこちにおかみ に誕生した神は
国忍富神=くにおしとみのかみ
ここから三代目
国忍富神と
葦那陀迦神=あしなだかのかみ(またの名を八河江比売=やがわえひめ) に誕生した神は
速甕の多氣佐波夜遲奴美神=はやみかのたけさはやぢぬみのかみ
ここから四代目
速甕の多氣佐波夜遲奴美神と
天之甕主神=あめのみかぬしの娘、前玉比売=さきたまひめ に誕生した神は
甕主日子神=みかぬしひこのかみ
ここから五代目
甕主日子神と
淤加美神=おかみのかみの娘、比那良志比売=ひならしひめ に誕生した神は
多比理岐志麻流美神=たひりきしまるみのかみ
ここから六代目
多比理岐志麻流美神と
比比羅木の其花麻豆美神=ひひらぎのそのはなまづみのかみ の娘、
活玉前玉比売神=いくたまさきたまひめのかみ に誕生した神は
美呂浪神=みろなみのかみ
ここから七代目
美呂浪神と
敷山主神=しきやまぬしのかみの娘、青沼馬沼押比売=あおぬまうまぬまおしひめ に誕生した神は
布忍富鳥鳴海神=ぬのおしとみとりなるみのかみ
ここから八代目
布忍富鳥鳴海神と
若盡女神=わかつくしめのかみ に誕生した神は
天日腹大科度美神=あめのひばらおおしなどみのかみ
ここから九代目
天日腹大科度美神と
天狭霧神=あめのさぎりのかみの娘、遠津待根神=とおつまちねのかみ に誕生した神は
遠津山岬多良斯神=とおつやまさきたらつのかみ

ここまでの神を一七世の神という。

*1、天照大神との誓約の時に生まれた、須佐之男命の娘
*2、ごめんなさい、「すき」は変換できませんでした。(T_T)
*3、奈良県南葛城群葛城村に鎮座

さて、またまた神の名がずらずらと並ぶことになってしまいました。
しかし変です。一七世??人数が足りませんね・・・。もしや消された神の名もあるのでしょうか?
ふふふふふ・・・・( ̄ー ̄)あやしい・・
それにこの後の国譲りで大きな役割を果たすタケミナカタがいません。
かれは先代旧事本記(せんだいくじほんぎ)によると、ヌナカワヒメの子供という事になっているそうですが・・・。また後に迦毛之大御神となったアジスキタカヒコネはタケミナカタと同じ雷神なので、同一神扱いをされたのでしょうか?
この賀茂(迦毛)之大御神もいわくつきですよぉ^^。この神は役の小角につながる賀茂氏の氏神なんですよ。そして賀茂氏の祖先はニギハヤヒとも言われています。ニギハヤヒはこの後の天孫降臨のニニギのお兄さんで彼よりも早く河内の国の河上哮峯=かわかみのたけるがみね に降臨したことになっているのです。(古事記には出てこないエピソードですが)
またここのくだりでは、よく「鳥」というフレーズが出てきます。ウサギ、ネズミに続いて、鳥! また人で無いものが登場ですね。( ̄ー ̄)

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