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第七分室へようこそ!早速続きを始めたいと思います。

  大国主の神

稲羽の素兎

さてこの大国主神には大勢の兄弟(八十神=やそかみ)がいた。
彼らは皆、稲羽の国*1 の八上比売=やかみひめ と婚姻をしたがっていた。
そこで全員で稲羽の国に向かったが、兄神達は先に立って歩き、
大国主神は兄神達の袋持ちをさせられ、従者扱いで後からついていった。

気多(けた)の岬を兄神達が通りかかった時、浜に裸(あかはだか)の兎が倒れ伏していた。
それをみた兄神達は兎にこう教えた。
「おまえがその傷を治したければ、海水に浸かり、その後ひなたで風にあたると良いぞ。」
ありがたく思った兎がその通りを実行した所、
彼の身体は悉くひび割れ、ひび割れからは血が滲み、海水の潮がひりひりとしみてきた。
兎が余りの痛さに泣き苦しんでいる所に兄神達に遅れて、大国主神が通りかかった。
「なぜ、お前は泣いているのだ?」
「私は淤岐(おき)の島の兎でございます。思うところがありまして、この地に渡ろうと考えました。
でも私にはこの海を渡る手段がありません。そこで鮫(わに)*2 達をだまして渡ろうと
思いました・・・・
『鮫族と兎族の数比べをしようじゃないか。君達がここから向こうの浜までずらりと並んでくれたら、私がその背を渡りながら、数を数える事にしよう。』
・・・そういって、この浜まで渡ってきたのですが、後少しで終わると思うところで、つい、ゆかいになって鮫達に私が彼らをだました事をしゃべってしまったのです。
怒った彼らは、私の衣服を剥ぎ取ってしまいました。
その様子をみたあなたの兄神たちは海水に浸かり風にあたれと教えてくれたので、その通りにするとこのようなありさまになってしまったのです。」
兎は涙をこぼしながら説明した。
それを聞いた大国主は兎に優しく教えた。
「今からすぐ川に行き、真水で身体を優しく洗いなさい。そうしてから水辺の蒲黄(がまのはな)*3を取り敷き詰めて、その上を寝転がり回れば必ず治りますよ。」
感謝した兎は大国主にある予言をした。
「兄神達は八上比売を得る事は出来ないでしょう。袋を背負って、従者の身なりをしていても、きっとあなたが選ばれます。」

この時の兎は「稲羽の素兎」という。現在では兎神と呼ぶ。

*1、今の鳥取県八頭郡八上辺り。
*2、ワニ鮫の事?この辺りの方言では鮫(さめ)のことをワニと呼ぶ事があるという。
*3、蒲の穂の花粉。古代から治血・治痛薬などに用いられた。

文中ではわかりやすく「大国主」としていますが、原文は「大穴牟遲神」と表記されています。
また、「出雲風土記」には、この説話は載っていません。わずかに「因幡国風土記」に原文と見られる説話が載っているようです。
ところで皆さんの記憶の中の因幡の兎は何色?「白」のイメージの方が多いのではないでしょうか?
実際に子供向けの絵本などは「因幡の白兎」としている物が100%近いような気がします。
でもでも!!古事記の本文の中には一度も「白」なんて書いていません!
最初は「あかはだか」だし 次には「素兎」なんですよ。不思議でしょ?!何時どこで「白兎」に変わっちゃったんでしょう?
いくらなんでも素が白ではこじつけすぎのような気がしますがね〜(ーー;)
また兎はハッキリと「衣服」を剥がれた。と言っています。
兎が赤いチョッキを着たりしたマンガもありますが^^;いくら擬人化するといっても、皮を衣装に見たてるのは変!!だと思いませんか。
しかも予言までしちゃったりなんかして・・・その後神と呼ばれたりなんかして・・・
ねぇ〜ふっふっふ( ̄ー ̄)怪しい・・・

八十神の迫害
兎の予言通り、八神比売は大勢の兄神達に向かっていった。
「私は、あなた方のもとへは嫁ぎません。大国主神のもとへ嫁ぎたいと思います。」
この言葉に兄神達は非常に腹を立て、大国主を殺してしまおうと考えた。
そして共に謀り、彼を伯伎国(ほうきのくに)に呼び出して命令した。
「この山の赤い猪が暴れ回るので民が困っている。われわれが上から追い落とすから、お前は下にいてしっかり捕まえるのだ。」
承知した大国主神を残し、山に上がった兄神達は山上で猪に似た大岩を火で真っ赤に焼き、これを転がり落とした。下でこれを受けた大国主は石に焼かれ死んだ。

この様子を見た母神である刺国若比売=さしくにわかひめ は非常に嘆き、
天界に行くと神産巣日之神=かんむすびのかみ にわが子の命を助けてくれるように懇願した。
その願いは聞き入れられ、早速にキサ貝比売*1=きさがいひめ と蛤貝比売=うむぎひめ とが遣わされた。
この女神達の治療で大国主は復活し、前にもまして、麗しい男となった。

*1、すみません!「キサ」は変換できませんでした。辞書にも入ってなかった(T_T)

さあ!ここからオオクニヌシの試練の始まりです^^。(本当はここでもオオナムチで表記されています。)
みごと八上神比売に選ばれたオオクニヌシは大勢の兄さん達に妬まれる結果となります。
しかし哀しいくらい見事にダマされてしまうオオクニヌシって・・・(T_T)どう考えても変ですよね〜!
さて、死んでしまったオオクニヌシを救う女神達ですが、この二人は只者じゃあありません^^。
キサ貝=赤貝、ウムギは字の通りのはまぐり。
これは古代の火傷の民間療法を擬人化した物と考えられています。(赤貝の粉を蛤の汁で溶いてそれを患部に塗ると火傷が治るとされていた。)
只者じゃないのはこの先^^!キサ貝比売は出雲の最高神「佐太大神」の母神なのです☆
彼女達はカンムスビの子供とされていますが、このカンムスビはスサノオ−オオクニヌシに続くラインの最初の神にあたります。(後に出てきて、オオクニヌシを補助するスクナヒコもカンムスビの子です)
いよいよ神々は二派に別れてきましたね〜( ̄ー ̄)
この赤猪の説話は「出雲風土記」にも原本となる話が出てきます。

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