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第二十八分室へようこそ!どうぞお付き合いの程よろしくお願いいたします。

応神天皇

1、后妃皇子女
品陀和気命=ほむだわけのみこと、は軽島の明宮(かるしまのあきらのみや)*1において政を行なった。
この天皇は
品陀眞若王=ほむたまわかのみこ、の三人の娘を娶った。
一人目の、高木の入日売命=たかぎのいりひめのみこと、との間に誕生した御子は
額田大中日子命=ぬかたのおおなかつひこのみこと
次に
大山守命=おおやまもりのみこと
次に
伊奢之眞若命=いざのまわかのみこと
次に
大原郎女=おおはらのいらつめ
次に
高目郎女=こむくのいらつめ

二人目の、中日売命=なかつひめのみこと、との間に誕生した御子は
木の荒田郎女=きのあらたのいらつめ
次に
大雀命=おおささぎのみこと
次に
根鳥命=ねとりのみこと

三人目の、弟日売命=おとひめのみこと、との間に誕生した御子は
阿倍郎女=あべのいらつめ
次に
阿具知の三腹郎女=あはぢのみはらのいらつめ
次に
木の菟野郎女=きのうののいらつめ
次に
三野郎女=みののいらつめ

また丸邇の比布禮能意富美=わにのひふれのおおみ、の娘
宮主矢河枝比売=みやぬしやかわえひめ、との間に誕生した御子は
宇遲能和紀郎子=うぢのわきいらつこ
次に
八田若郎女=やたのわきいらつめ
次に
女鳥王=めどりのみこ

また宮主矢河枝比売の妹
袁那辨郎女=おなべのいらつめ、との間に誕生した御子は
宇遲之若郎女=うぢのわきのいらつめ

また咋俣長日子王=くいまたながひのひこのみこ、の娘
息長眞若中比売=おきながまわかのなかつひめ、との間に誕生した御子は
若沼毛二俣王=わかぬけふたまたのみこ

また櫻井の田部連の祖、島垂根=しまたりね、の娘
糸井比売=いといひめ、との間に誕生した御子は
速總別命=はやぶさわけのみこと

また日向の泉長比売=いづみのながひめ、との間に誕生した御子は
大羽江王=おおばえのみこ
次に
幡日之若郎女=はたひのわかのいらつめ

また迦具漏比売=かぐろひめ、との間に誕生した御子は
川原田郎女=かわらだのいらつめ
次に
玉郎女=たまのいらつめ
次に
忍坂大中比売=おさかのおおなかつひめ
次に
登富志郎女=とほしのいらつめ
次に
迦多遲王=かたぢのみこ

また葛城の野伊呂売=ののいろめ、との間に誕生した御子は
伊奢能麻和迦王=いざのまわかのみこ

この天皇の御子は合わせて二十六柱である。

*1、奈良県高市郡


2、大山守命=おおやまもりのみこと、と大雀命=おおささぎのみこと
ある日天皇は大山守と大雀の二人をよんで聞いた。
「ここに二人の兄弟がいるとしたら、お前達は兄と弟のどちらが可愛いと思うかな?」
長男である大山守は即座に
「それはやはり兄の方でしょう。」と答えた。

しかし大雀は天皇が下の弟の宇遲能和紀郎子=うぢのわきいらつこ、を可愛がっているのをしっていたので少し考えてから答えた。
「兄はすでに成長しているのでとくに心配はないですが、弟はまだ小さく守ってやらねばならないので弟の方が可愛いと思います。」
これを聞いた天皇は我が意を得たり!と喜んで
「まことに大雀の言うとおりじゃ!私もそう思っていた。」
そして続けてこういった。
「大山守は山海の政*1をせよ。大雀は天下の政*2をせよ。そして天津日継*3は宇遲能和紀郎子にさせよう。」
こうして大雀は天皇の命令に従い政治をとる事となった。

*1、海や山などの部民を司る仕事。
*2、国を司る政治
*3、天皇の位


3、矢河枝比売=やかわえひめ
これは天皇が矢河枝比売に出会った時の話しである。
その日天皇は近つ淡海国*1へ出かける所であった。
途中の宇遲野*2から葛野*3を臨み詠んだ歌

千葉の 葛野を見れば 百千足る 家庭もみゆ 国の秀もみゆ
【みなさい。葛野の地にはたくさんの家庭が満ち満ちている。なんて国土のすぐれたところだろう。】

それから葛野をすぎて木幡にさしかかった所の分かれ道で天皇は一人の美しい少女に出会った。
「おまえは誰の娘だ?」
「私は丸邇の比布禮能意富美=わにのひふれのおおみ、の娘、宮主矢河枝比売=みやぬしやかわえひめ、と申します。」
「わかった。明日、おまえの家をたずねるとしよう。」
天皇はそう言い置いて去っていった。

不思議に思った少女は早速帰ると父親に先ほどのことを報告した。
すると父親は驚き少女に向っていった。
「それは天皇に違いない。恐れ多い事におまえを御所望なさったのだよ。」
それから大急ぎで丸邇の比布禮能意富美は天皇を迎える準備にかかった。

次の日約束通り天皇はやってきた。
丸邇の比布禮能意富美は盛大な宴を催し、最高の料理でもてなし、娘に酌をさせた。
天皇は上機嫌で酒を傾け歌を詠んだ。

この蟹や 何処の蟹 百傳ふ 角鹿の蟹 横去らふ 何処に至る 伊知遲島 美島に著き 鳰鳥の 潜き息づき しなだゆふ 佐佐那美路を すくすくと 我が行ませばや 木幡の道に 遇わし乙女 後姿は 小楯かも 歯並は 椎菱如す いちいの 丸邇坂の土を 初土は 肌赤らけみ 底土は 丹黒き故 三つ栗の その中つ土をかぶつく 眞火には當てず 眉書き 濃に書き垂れ 遇はしし女人かもがと 我が見し子ら かくもがと我が見し子にうたたけだに 對ひ居るかも い添い居るかも
【この蟹はどこの蟹かな?遠い所からやってきた角鹿の蟹かな?横にあるいてどこまで行くのか?伊知遲島 や美島までいくのか?私はといえば海鳥が潜っては息継ぎをするように上り下りの坂道を越えてきたよ。そこで出会った乙女は楯のようにスラリとしていて、歯並びは真っ白で、肌はほんのりと赤く、黒髪の美しい眉のきりりとした乙女だったよ。その乙女がこうして私の物になるなんてなんてうれしいんだろう】
*4

こうして生まれた御子が宇遲能和紀郎子=うぢのわきいらつこ、である。

*1、滋賀県
*2、京都府宇治市
*3、京都府京都市今の桂川流域の平野あたり
*4、蟹は古代においては大変貴重な海の珍味だった。

ちょっと一気にいってしまいました。
ここは応神天皇が着々と河内王朝を築いていく様を示していると思います。
実際には本人が・・・というよりも彼の母が・・といった方が正しいかなぁ〜(^_^;)
で・・彼のちょっとした反抗心がいわゆる宇遲能和紀郎子の溺愛につながっていったように
思います。
最初の三姉妹との婚姻はきっと政略的な要素が多く含まれており
彼にしてみれば母親に押し付けられた結婚と言う所でしょうか(^^ゞ
彼が自身の考えで結婚したのが矢河枝比売だったのかもしれませんね。
後はほとんどその土地その土地の地盤固めのような婚姻が繰り返されています。

さてそんな応神天皇の気持ちを上手く読んで、要職についた大雀は実は後の 仁徳天皇です。
幼少時代から知恵が回り他人の気持ちを読むのが得意だったという エピソードになるでしょうか(^^)
彼は大変建内宿禰と深い関係があるんですよ・・・。
ちょっとあやしいエピソードなんですが詳しくはこちらへ!
それにしてもどこまでも怪しい建内宿禰・・・・( ̄ー ̄)にやり・・


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