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第二分室へようこそ!早速続きを始めたいと思います。

火神被殺
伊邪那美命の死を前に伊邪那岐命は号泣した。
その涙から生まれた神の名は
泣澤女神=なきさわめのかみ

そして伊邪那美命は出雲国と伯伎国との堺の比婆の山に葬られた。*1

「この子一人の為に私は大事な人を失った!!」
悲しみに怒り狂った伊邪那岐命は生まれたばかりの火の神「迦具土」の首を腰に下げていた十拳剣(とつかのつるぎ)*2 で切り落とした。
その剣についた血が岩々に飛び散ってそこから神々が生まれた。
まず
石拆神=いわさくのかみ
次に
根拆神=ねさくのかみ
次に
石筒男之神=いわつつおのかみ

剣についた血からも神々が生まれた。
まず
甕速日神=みかはやひのかみ
次に
樋速日神=ひはやひのかみ
次に
建御雷之男神=たけみかづちおのかみ
(またの名を建布都神=たけふつのかみ、また豊布都神=とよふつのかみともいう。)

剣についた血は柄まで流れ、伊邪那岐の手をよごし、そこからも神が生まれた。
まず
闇淤加美神=くらおかみのかみ
次に
闇御津羽神=くらみつはのかみ

ここまでの八神は剣についた血から生まれた神々である。

殺され、ばらばらになった「迦具土」の死体からも神々が生まれた.
頭から
正鹿山津見神=まさかやまつみのかみ
胸から
淤縢山津見神=おどやまつみのかみ
腹から
奥山津見神=おくやまつみのかみ
陰から
闇山津見神=くらやまつみのかみ
左手から
志藝山津見神=しぎやまつみのかみ
右手から
羽山津見神=はやまつみのかみ
左足から
原山津見神=はらやまつみのかみ
右足から
戸山津見神=とやまつみのかみ

彼を殺した十拳の剣の名は
天之尾羽張=あめのおはばり(またの名を伊都之尾羽張=いつのおはばり)という。

*1、日本書紀では紀伊の国の熊野の有馬村に葬ったとある。
*2、十拳の剣とは固有名詞ではなく、十拳の長さ(ほぼ1m)を持つ剣という意味。*「拳=つか」とは、長さの単位。一拳は握りこぶし一つ分の長さ.

なんとなんとイザナギは実の子のカグツチを殺してしまいます。
その上ばらばらに・・・!!!
火と剣から神が誕生した、という事でこの件は鉄の精製と関連付けて考えられる事が多いようです。
神の生まれる順番が刀剣の製作順序になっているというのです.
また飛び散った血は鉄を鍛える時の火の粉にたとえられています。
人は火の神を殺す事によって火を手にいれたのでしょうか・・・
さてここで質問!!
カグツチは男でしょうか?女でしょうか?
生まれた時の別名に火之夜藝速「男」神とあるので、男でしょうか?
しかしばらばらにされた体には「陰=ほと」(女性器のこと)とあります。えっ!?じゃあ女?
考えると夜も眠れませんねぇ・・・(^_^;)
誰か教えてくれませんか・・?
あっ☆それから、最後に出てきた剣は後に神として重要な場面で再登場します.お楽しみに^^。

黄泉の国
どうしても伊邪那美命が忘れられない伊邪那岐命はとうとう、黄泉の国まで会いに行った。
「私達の国造りはまだ、完全ではない。もどっておくれ。」
伊邪那美命は答える。
「残念ながら、私はもう黄泉の国の食物を口にしてしまいました。*1 帰る事はできません。」
しかし諦めきれずに懇願する伊邪那岐命に とうとう根負けした伊邪那美命は
帰りの許しを得るため黄泉神=よもつかみに会いに行く事にした。
その間、伊邪那岐命には決して中を見ない。と言う事を約束させて・・・。
しかし なかなか戻ってこない伊邪那美にしびれを切らした伊邪那岐はとうとう禁忌を破ってしまう。
彼は自分の櫛を取り出すと歯を一本折り、それを松明代わりに灯してしまうのである。
明かりの下で見た彼女の体は腐敗し、うじがたかり、声はしゃがれ、
頭には 大雷=おおいかずち
胸には 火雷=ほのいかずち
腹には 黒雷=くろいかずち
陰には 拆雷=さきいかずち
左手には若雷=わかいかずち
右手には土雷=つちいかずち
左足には鳴雷=なりいかずち
右手には伏雷=ふしいかずち
合わせて八柱の雷神が彼女の体を蝕んでいた。
変わり果てた伊邪那美のあまりの恐ろしさに、思わず伊邪那岐は逃げ出してしまう。
「見てはいけないと御願いしておりましたのに・・・。私に恥をかかせましたね・・・。」
激怒した伊邪那美は黄泉醜女=よもつしこめ に後を追わせた。
黄泉醜女の足は速く、伊邪那岐命は途中今にも追いつかれそうになる。
そこで最初は左の角髪にさした髪飾りをとり 投げると山葡萄が現われた。
その山葡萄に黄泉醜女が食らいついている間に逃げ去った。
2度目は右の角髪にさした飾りを投げると筍が現われた。
またも黄泉醜女が筍を食っている間に、出口まで後少しの所まで逃げてきた。
業を煮やした、伊邪那美は1500の黄泉軍を差向けた。
伊邪那岐は後手に剣を振るいながら逃げ、
黄泉比良坂まで着た時に、3つの桃の実を見つけた。*2
この桃の実を投げると黄泉軍はことごとく逃げ帰っていった。
伊邪那岐命は桃の実に大変感謝し、
意富加牟豆美命=おほかむづみのみこと
の名前を与えた。
最後に伊邪那岐命はこの黄泉の国の入り口を「千引の岩=ちびきのいわ」で塞いでしまった。
その時 岩の向こうで伊邪那美命の声が聞こえる。
「愛しい我夫よ・・・。あなたのこのひどい仕打ちの仕返しに、私はあなたの国の人々を
1日に1千人殺しましょう・・・。」
「ならば、我愛しい妻よ・・・。私はこの世に1日千五百人の命を誕生させよう。」
こうして、人は1日に1千人死に、千五百人生まれる事になった。

この後伊邪那美命は
黄泉津大神=よもつおおかみ
となる。

また伊邪那岐命が追いつかれそうになった道は、
道敷大神=ちしきのおおかみ
と、名づけられる。
また黄泉の国を塞いだ千引の岩は
道反之大神=ちがえしのおおかみ(またの名を塞ります黄泉戸大神=さやりますよみどのおおかみ)
と、名づけられる。

また黄泉比良坂は今は
出雲国の伊賦夜坂と言われる。
*1その国の食物を口にしたと言う事はその国の住人になってしまったことを意味する。
*2桃には魔除けの力があると信じられていた。中国の思想。

この話はわりと皆さんになじみのあるお話ではないでしょうか?
よくある禁忌譚です。
だいたいにおいて、やっちゃいけない!といわれた事が守られた事はありませんね〜(^_^;)・・・。
この手の話はいろんな処にありますが、
有名な所で言ったら、ギリシャ神話のオルフェウスとエウリディケの話でしょうか?これもやはりオルフェウスが冥界のエウリディケを連れ帰ろうとする物語です。(やっぱり禁忌をやぶったために失敗しますが・・・)
この件はよく古墳の話にたとえられたりします。古墳の中が冥界(黄泉の国)という解釈ですね。
なるほど・・・と思いますが・・・ん〜・・もひとつ納得できない・・・(ーー;)
ところで重箱の隅をつついて穴あけちゃうような話ですが、黄泉の国って何?
黄泉神っていったい何者?いつのまに生まれたんだ?!
この神はこれまでの系譜とは別ルートの神なのでしょうか・・・?
ふっふっふ・・・あやしいですね・・・
この後イザナミは黄泉津大神になっちゃうんですよ・・・。
しかも勝手に軍隊まで出動させちゃうんですよ・・・。冥界の女王ってとこですかね・・。
どうやら古事記には影を流れる見えないもうひとつの流れがあるようです・・・。( ̄ー ̄)


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